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雨竜沼のなりたち

国内第2位の規模

 雨竜沼湿原は、国内では日光の尾瀬につぐ規模を持つ ( 池塘を有する山地の高層湿原として ) 山地高層湿原です。 地理的には北緯43°41′48″、東経141゜36′30″にあり、増毛山地・南暑寒岳の東面 、群馬岳と恵岱岳の狭間に広がる標高850mの溶岩台地上に存在しています。湿原本体は東西2km、南北1km程の大きさですが、周囲に散在する十数カ所もの小湿原を含めると、遥かに大きな集水域を有する事になります。

標高850mの溶岩台地に広がる雨竜沼湿原

標高850mの溶岩台地に広がる雨竜沼湿原

火山の申し子~雨竜沼

増毛山地は標高1,491mの暑寒別岳を盟主に、西暑寒岳  (1413m)、群別岳(1376m) 、南暑寒岳(1296m)などの千メートル級の山々が十数座連なります。この山域は「日本海側多雪地帯」と呼ばれる気候環境に属し、冬は日本海からの強烈な季節風を受ける屈指の豪雪地帯で知られます。そのため、高々1,500mにも満たない標高であっても、山々は夏遅くまで豊富な残雪を有します。実は、この豊かな水資源が雨竜沼湿原を育む大きな原因となっており、湿原から流れ下る清流が里の農業を支え、人々の暮しを潤しています。

これらの山々はいずれも170万年程前に活動を終えた古い火山群であり、詳しい地質年代で言えば鮮新世末から更新世初期に当たります。この火山活動により生じた広大なすり鉢状の溶岩台地に、後に雨竜沼湿原が誕生することになります。

溶岩台地は玄武岩と呼ばれる溶岩で成り立っており、登山道の途中に架かる白竜の滝の背後に見られる黒い岩盤に、太古の火山活動の面影を残しています。溶岩台地が形成された当初は大きな窪みに水が溜まり、古雨竜湖と呼ばれるような山上湖が誕生したと想像されます。しかし、長い年月の間に溶岩台地を取囲む渓谷の侵食・崩壊が進み、古雨竜湖は次第に排水・消滅し、現在は東西にペンケペタン川がすり鉢の底を貫流しています。湿原生成の始まりとなる泥炭層の堆積は1万5千年程前から始まっており、北海道の山地湿原の中では最も古い歴史を持つ湿原に含まれます。

世界的にも希少価値が高い円形池塘の様子

世界的にも希少価値が高い円形池塘の様子

 

雨竜沼の特徴・魅力

雨竜沼湿原の特色の1つに美しい円形池塘の存在を挙げる事が出来ます。湿原内には直径数十cmから100mにも及ぶ大小700を超える池塘(高層湿原に形成された天然の池)が散在します。しかも、その多くが美しい円形をしており中には真円形に近い造形美を見せる池塘もあります。こうした多数の円形池塘の存在は大変稀少な湿原景観であり、その正確な起源についてはまだ詳しくは解明されていません。シベリアのツンドラ地帯の湿原に円形の構造土が見られることから、湿原形成の初期にあたる氷河期の気候が関与しているかも知れません。池塘の中には浮島を有するものが見られますが、湿原最大の池塘に国内第3位の長さ25mにも及ぶ巨大な浮島が存在します。これらも、雨竜沼湿原の特異な池塘景観の1つと言えます。

生育するウリュウコウホネ

生育するウリュウコウホネ

植物の多様性もこの湿原の大きな特色です。湿原内だけでも雪解けの6月から初雪の降る10月までの数ヶ月の間に150種以上の植物が開花します。道内山地湿原では最も多彩な植生を有する湿原です。特に7月,8月ともなればエゾカンゾウやタチギボウシが群落で湿原を彩り、山上の花園と化します。希少種については、これまで暑寒別岳に特産種のマシケゲンゲやマシケオトギリなどが報告されていましたが、近年雨竜沼湿原でもオゼコウホネの1品種としてウリュウコウホネが報告されました。ウリュウの名を冠した初めての植物が誕生したのです。短い一夏に演じられる花達の競演は、この湿原を訪れる人たちを魅了します。

湿原で繁殖するマガモのペア

湿原で繁殖するマガモのペア

野生動物を見ても、エゾヒグマを始めとする大型の陸生哺乳類や、種々の野鳥類等、多くは北海道の他の山地で普通に生息する種ですが、雨竜沼湿原を含むこの増毛山地一帯でも豊かに息づいています。

昆虫類の世界では、この湿原はまだまだ研究面では手付かずの状態にあると言えます。暑寒別岳では大雪山に生息する高山昆虫の存在が報告されていますし、雨竜沼湿原内の池塘からは雨竜沼独特のプランクトンや食虫植物を食する蛾の生息も報告されています。今後の研究に新たな発見が期待されます。

湿原に生息するオオルリボシヤンマ

湿原に生息するオオルリボシヤンマ

保全について

現在雨竜沼湿原を含む増毛山地一円は1990年に「暑寒別天売焼尻国定公園」に指定されており、雨竜沼湿原は湿原全域が特別保護地区として大切に保全されています。こうした優れた湿原の資質が、2005年にラムサール条約の登録湿地として世界に認知される所以となりました。今後は、訪れる登山者がこの湿原を通じてより健全な自然体験が得られることと、末永く未来にこの湿原環境が守り伝えられるよう努力する必要が急務です。

生育するツルコケモモ

生育するツルコケモモ